富賀浜
  三宅島の見所スポット[ 阿古エリアのジオスポット ] 林道探索の書 〜今日もどこかで林道ざんまい〜 
 [10]富賀浜 / Togahama Beach   もどる  

  阿古エリア
  阿古エリアのジオスポット
    1コシキ火口
    2メガネ岩
    3笠地
    4七島展望台
    5鉄砲場
    6鉄砲沢
    7今崎海岸
    8薄木 溶岩流
    9新澪池跡と新鼻新山
    10 富賀浜

村営バス「富賀神社前」バス停から徒歩20分

富賀浜
〜度重なる噴火で形成された地層と複雑な海底地形〜
海岸沿いの高台には、弥生中期の遺跡があります(富賀浜A遺跡)。海岸に面した崖では、
三宅島の噴火史を読み解く地層が露出しています。海岸のゴロタ石に面して黒い崖が切り立っていますが、
「爆発角礫岩(ばくはつかくれきがん)」で構成されています。

この地層は、ごく近くの海岸線もしくは海底で起きた
マグマ水蒸気爆発の噴火で放出された大小様々な岩塊からなる地層です。
この地層の上位には、
黒いザクザクとしたスコリア層(八丁平スコリア層)とそれに重なる火山灰層が観察できます。

地表近くには、白い軽石粒が散在する地層が目にとまるでしょう。
これは西暦886(仁和2)年の新山向山噴火によって飛ばされてきた軽石で、
三宅島の噴火史考える上で、
よい鍵層(かぎそう / 地層の年代や重なる順序を比較するのに目安となる特徴のある地層)になっています。

東側に広がる海岸(間鼻)に重なる溶岩を流出した噴火は、
その重なり方から、新山の噴火の少し前に起きていたことがわかります。
[ GEO POINT ]水冷火山弾 Water-cilled bombus
爆発角礫岩の中には、たくさんの様々な形態を見せる火山弾が入っています。観察してみてください。
特に、地層の上面には、水中で急激に冷されたことによって、
放射状の特徴的な割れ目が発達した、「水冷火山弾」を観察することができます。

富賀神社を通り過ぎた先にある富賀浜

三宅島一周道路 (都212号線)から外れて富賀神社を通り過ぎてたどり着く海岸にあるのがジオスポット「富賀浜」です。駐車スペースと四阿がありますが、錆ヶ浜港からは歩いていくには微妙に遠く、また都道から外れた行き止まりの場所にあるためか、訪れる観光客の姿もなくて浜に打ち寄せる波の音が聞こえるだけの静かな場所でした。





そこにはこのような道標が立っています

ジオスポット案内板のある四阿の脇に道標がありました。 「富賀浜 (アカネ方面) 70m」 「富賀浜 (マルシマ方面) 70m」と記されていますが、 道標は「アカネ」と「マルシマ」という海に浮かぶ岩礁の位置を示しているみたいです。

海釣りやダイビングで三宅島を訪れる人ならピンとくるのかもしれませんが、林道目的とか一般観光客にはちょっとなんのことだか分からないって。





ジオスポット的にはゴロタ石の海岸背後の崖の地層が貴重らしいです

うわっ、もの凄い量のゴロタ石! 案内板地点から右手の富賀浜を眺めてみると、玉石というには巨大過ぎる丸みを帯びた膨大な石が積み重なって浜を埋めているじゃないですか! 岩礁地帯の広がる今崎海岸(阿古)や沖原海岸(坪田)、砂浜の大久保浜(伊豆)、そして玉石の浜が広がる釜の尻海岸(神着)もそれぞれ特徴的ですが、ここまでゴロタ石にまみれた海岸は富賀浜くらいかな。

ここではどうしてもごろた石の堆積する浜の景色に目を奪われてしまいますが、ジオスポット的には海岸に面して切り立つ黒い崖が注目ポイント。噴火で放出された大小様々な爆発角礫岩で構成された地層ですが、過去の噴火ごとの地層が積み重なって崖ができているので、地層を調べれば三宅島の噴火の歴史が分かるそうです。





ゴロタ石の浜には海の中まで階段が延びています

足場が不安定でとても歩きにくい巨大なゴロタ石まみれの浜には、海へと降りる階段が設けられていましたが、完全にフィッシュウォッチングやダイビング用だな。





荒波の中に頭をのぞかせるアカネと三本嶽

富賀浜正面の沖合を眺めてみます。水面に岩礁が頭を出していますが、あれが道標に記されていたアカネという岩礁でしょうか?  道標には 70 mとありましたが、 波打ち際からちょうどそれくらいの距離でした。 さらに沖に目を向けると 10kmほど離れた海上に浮かぶ三本嶽が小さく見えていますね。

ここ富賀浜とその沖の三本嶽周辺はダイビングで人気のスポットらしく、海中には魚も多くて日本最北端といわれるテーブルサンゴの群生があるそうです。





富賀浜を見下ろす斜面にぽつんと立っていた鳥居

あれ、あんな所に鳥居がありました。富賀浜の海を眺めながら海岸伝いに遊歩道を歩いていくと、その先にポツンと淋しく立っているのが目にとまります。





鳥居の奥には名もなき小さな祠が!

鳥居の正面までやってきました。朱色の褪せた鳥居の奥に小さな祠が祀られています。火山の噴火を神威として畏れ祀ったのか、とにかく神社や祠の多い三宅島。富賀浜を見下ろすあの場所ではどのような神様を祀っているのでしょうか。





海に突き出た岬のようなママの岩礁地点が富賀浜の端

祠を過ぎてさらに歩いていくと富賀浜の端に「ママ」の断崖が大きく見えてきます。ママというのは岬のように海に突き出た地続きの岩礁の名称ですが、波打ち際は相変わらず一面のゴロタ石まみれで、背後には見上げるほどの断崖となった爆発角礫岩の地層がぐっと迫って荒々しさも倍増!

さらにその手前の海面には島のような大きな岩礁が海からそびえるように立っていますが、ここまで来たらもっと近くで眺めたいもの。というわけで木亜岩をさらに進んでママの岬に向かってもっと接近しちゃいますよ。





近づくほど大きさが実感できる溶岩由来のゴロタ石

富賀浜の波打ち際にガラガラと堆積するゴロタ石。しかし、その色合いといいあからさまに溶岩チックな形状をしているな〜。遠目には小さく見えていますが、すぐそばまで接近してみると、一つ一つの巨大さがよく分かります。





海中の岩礁地帯につき周囲が激しく白波だつアカネ

再び海面に頭をのぞかせるアカネの岩礁を眺めてみます。青森県の尻屋崎から太平洋岸に沿って伊豆諸島から小笠原諸島を含み、静岡県御前崎までにかけて海中の岩礁や岩の名称にはネ(根)とつくものが多いらしいですが、このアカネもその一つですね。海中には岩礁の本体が隠されているのか、周囲の海面が激しく白く波だっていました。





ここにも海へと降りる歩道がありました

海岸伝いの遊歩道をさらに進むとまたしても海へと降りる石畳の歩道がありました。ゴロタ石が産卵する浜を歩いて波打ち際まで進のは困難なため、これもダイビング用に整備されたものですね。今度は進める地点までたどってみます。





波を被るこの地点で途切れていた歩道

溶岩を再利用した石畳の歩道の先は急な階段となって、打ち寄せる波をもろに被る地点で途切れています。そのすぐ先は果てしなく続く太平洋の水平線が広がるのみ。これ以上進むと波しぶきを受けてしまうのでここで引き返します。





多彩な青さが入り交じった波打ち際の海面の美しさには驚きです

あぁ、これは美しい! 海へと降りる歩道から波打ち際を眺めてみると、打ち寄せては引く波が海中の岩礁で砕けて波立つ様子がすぐそこに見えていますが、沖合の藍色と岩礁周辺のターコイズブルー、そして波打ち際の波の白さが織りなすコントラストが息をのむほどの素晴らしさです。それにしても海の色がこれほど多彩だったとはね!





波がブチ当たって砕け散る海中より突き出た巨大な岩礁

ママの岬の手前の海に突き出た岩礁の近くまでやってきました。もちろんこれは波打ち際から眺めたものですが、それでも見上げるほどの巨大さです。海面下より垂直に切り立つ岩壁に波が当たって飛沫となって砕け散っていますが、おそらく付近の海中は岸からは想像もつかない複雑な岩礁の海底地形となっているのでしょう。

さすがに海中の地形についてはダイビングをしないことには眺めようもありませんが、ジオスポット「富賀浜」は、海岸に面した火山の噴火由来の地層の崖とともに、海中の複雑な地形も注目すべき見所として挙げています。





富賀浜の海中の様子

富賀浜の海中には火山活動によって形成されたアーチや海底トンネルなどの複雑な海底地形があり、黒潮の影響で伊豆七島で最も美しいと言われるテーブルサンゴの群落があるそうです。海中の様子はジオスポット案内板掲載のこの写真でどうぞ。





富賀浜の端に立ち塞がって切り立つ断崖が凄まじいママの岬

富賀浜先端のママの岬の断崖と海面に突き出た岩礁(画像左)の海岸風景。遊歩道が途切れた地点から眺めてみますが、やはりここまで近づくと凄い迫力! ここまで近づくとアングル的にママの岬と岩礁がそれぞれ大き過ぎて入りきらなかったです。

さらにママの岬の断崖へと近づきたかったですが、その場合は険しい岩礁の真っただ中を乗り越えて進まなければならず、それは危ないので止めておきました。





富賀浜の波打ち際は気が遠くなってしまうほどのゴロタ石地獄

富賀浜の先端まで進んだのでここから引き返しますが、それにしても波打ち際は物凄い量のゴロタ石が! しかもその一つ一つがただの丸い石ではありません。遠目にはどれも同じものに見えてしまいますが、ぐっと近づいて眺めてみると、それらが一つとして同じものはない独特の形状をした溶岩の塊であることが分かります。

ちなみに伊豆七島の八丈島には玉石垣と呼ばれる玉石を積み上げて作られた石垣があって、流人たちがたった1個の握り飯と引き換えに材料の玉石1個を海岸から運んだのですが、それがどれほど過酷であるかたぶんピンとこないと思います。

しかし、「ここから石垣の材料となる玉石を1つ選んで阿古の集落まで抱えたまま歩いて運べ!」と言われたらどうでしょうか。速攻で泣きが入ると思いますが、江戸時代の流人たちは飢えをしのぐためにそういう苦労をしたんですね。景観的な凄さだけではなくて、そのようなことも頭によぎってしまったゴロタ石の富賀浜の海岸です。





あたかも隕石が衝突したような模様が!

まるで月面のクレーターのように円形の皿のような窪みだらけのゴロタ石。温度が冷めて固まる前に何かが細かく激しくぶつかったとか? いうや、違うな。溶岩の中の気泡とか煮えたぎる溶岩のあぶくのせいだと思いますが、正確には分かんねーし。





溶岩を意識させるあからさまな模様

積み重なった地層がぐにゃりと押し曲げられたかのような模様のゴロタ石もありました。いかにも溶岩ですっぽい独特の形状が珍しかったな。





このような珍妙な石もありました

なんとも面妖な! これ、黒い部分は水に濡れて染みになっているわけではないです。部分的に岩石の成分が異なるのか、一つのゴロタ石なのに黒と灰色でくっきりと色が異なっていました。はて、どうしたらこのような石ができる?





珍妙なの形状でヒダが寄っていたゴロタ石

表面に細かなヒダヒダが一面に走るゴロタ石です。まだ温度が高くて柔らかい状態の時になにかの衝撃を受けて表面にヒダが寄ってしまったとか? それに表面の色も灰色に黒がブチ模様で混ざって変わっていますね。このような石ばかりなので、富賀浜のゴロタ石は一つ一つ眺めて見て回っても飽きがこなかったな〜。





遊歩道の脇に立っていた看板

富賀浜園地の利用について
園地内の園路は、来園者の散策路としての利用のほか、
緊急時に緊急車両等が通行するためのものですので、駐車はご遠慮下さい。
緊急時に緊急車両が通行するとありますが、それってもしかしてダイビング系の水難事故のこと? 海中に潜らない一般観光客が遊歩道で呼ぶほどの事態はそうはないと思いますけど。せいぜい石でつまづいて足首を捻挫する程度でしょう。





ただの斜面っぽいけど噴火の歴史を読み解く上では貴重な地層

富賀浜の端まで行きは海を眺めたので、帰りがけにはジオスポットのもう一つの見所である爆発角礫岩で構成された海岸に面した地層を眺めながら戻ります。

地層をよく眺めると黒くてザクザクとした八丁平スコリア層およびそれに重なる火山灰層と、その上に西暦886(仁和2)年の新山向山噴火によって飛ばされてきたという白い軽石の粒が散在する地層が見えています。それらの地層の重なりから三宅島の噴火の歴史が分かるそうで、地層の中には多くの火山弾が混ざっているらしいです。

しかし、波打ち際のゴロタイ石に比べるとどうしても地味な存在に見えてしまう噴火由来の地層群。地学好きな方以外にはあまり興味を惹かないかもしれませんね。





荒々しい海辺に白い花を咲かせていたハマボッス

遊歩道を帰りがてら、スコリアでザクザクな地面にハマボッス(浜払子)が小さな可憐な花を咲かせていました。花を咲かせる姿が仏具の払子に似ているのでハマボッスと名付けられたサクラソウ科の海浜植物。

光沢のある肉厚でつるんとした葉がいかにも海辺に生える植物っぽいハマボッスは浜辺や岩場、崖地で5〜6月に小さな白い花を咲かせます。本州の海辺の砂浜でよく見かけますが、環境が厳しい三宅島のスコリアまみれの海辺でも自生していました。





5〜6月に富賀浜の海辺を彩るハマヒルガオの群落

富賀浜ではきれいなピンクの花をつけたハマヒルガオが一面に咲き乱れていました。北海道〜九州まで海岸の砂浜でよく見かけるハマヒルガオ科の海浜植物で、5〜6月に淡紅色の花を咲かせます。

ピンクの花を見かけると「海辺に来たな〜」と思ってしまうほど海岸ではよく見かけるハマヒルガオですが、ここ、三宅島でも海辺でよく見かけました。荒々しい富賀浜の浜辺の景色の中で鮮やかに、そして健気に咲いている姿が心に残ります。

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